【愛媛県伊予市】湊町の歴史的建築物群


2025.03.11

はじめに

愛媛県伊予市の湊町は、旧大洲街道の北側に位置し、かつて町の中心地として栄えました。ここには、江戸時代から大正時代にかけて建造された町家が今なお残されており、レトロな雰囲気が漂っています。切り妻造り平入りの外観や、漆喰塗り込めの虫籠窓など、質の高い伝統的な建築が軒を連ね、当時の趣を感じさせます。

また、古い部材を再利用して江戸期の町家を蘇らせるといった取り組みも進められるなど、街並みの保存や活用に力を入れている点も特徴です。カメラ片手にゆったり散策すれば、時代をさかのぼったような特別な気分を味わえますよ。

濱田屋

湊町通りの入口に構える入母屋造りが特徴的な老舗定食店です。創業は明治25年にさかのぼり、歴史を感じる外観やレトロな雰囲気の店内は数多くのメディアでも取り上げられ、度々話題を集めています。中でも、60年以上受け継がれてきた「汁なしカツ丼」はこの店の名物です。

卵でとじるわけでも、ソースカツ丼でもない「汁なしカツ丼」は、甘辛いタレをご飯にたっぷり染み込ませ、その上に揚げたてのサクサクなカツを載せるだけというシンプルさ。珍しさと美味しさが相まって、今では濱田屋を代表する人気メニューとなっています。

旧大西はかり店

明治29年に建てられ、かつて綿や肥料を扱っていたのが旧大西秤(はかり)店です。大正7年、第一次世界大戦にまつわる「米騒動」の際には、被害を受けたと伝えられています。

木村家

明治26年に建てられた町家で、長く伸びる格子が目を引く美しさを持っています。平成29年には伊予市の景観重要建造物に指定され、その歴史的価値と風情ある意匠が評価されています。

仲田家(酒造家)

旧酒造の仲田家は大正10年に建てられたもので、「国之富」と記された欅の屋号が今も残されており、その力強い文字が印象的です。

藤村家

藤村家(藤村石油邸)は、明治22年に建てられた油問屋で、本瓦葺の商家建築に加え、小屋根をあしらうなど、独特の意匠が際立ちます。

ギャラリーこごみ

築150年の古い商家の佇まいが、ギャラリーとしての個性を一層引き立てています。

和泉屋出店跡の碑

現在の旧和泉屋出店跡(西岡家)は、砥部焼の発祥に深く関わった場所として知られています。寛保年間(18世紀中頃)、大阪の商人・和泉屋治兵衛は大洲藩と伊予砥石の専売契約を結び、ここ湊町に拠点を構えました。しかし、砥石の屑の処分に頭を悩ませていたところ、天草の上田屋から砥石屑を利用して磁器をつくる技術がもたらされ、それが砥部焼の始まりになったと伝えられています。実は砥部焼の誕生のきっかけは、伊予市にあったわけですね。

江山焼の創始者・槇鹿蔵(まきしかぞう)と大師堂・金剛力士像

大師堂は弘法大師を祀る仏堂で、その楼門や鐘楼の両脇には、市指定文化財である一対の金剛力士像が安置されています。これらの像は、明治から大正にかけて郡中を代表する窯として知られた江山焼を興した槇鹿蔵(まきしかぞう)の手によるもので、昭和5年(1930年)頃に手びねりで作られた焼き物と伝えられています。また、伊藤博文が郡中を訪れた際には彩浜館に庭窯を築き、御前で楽焼を披露して抹茶茶碗を献上したともいわれています。

増福禅寺

もともと大洲藩主が開いたとされる禅寺で、楼門をくぐると右手に藤井道一の墓があります。藤井道一はこの地で医師を務めていた人物で、後に郡中を訪れた大村益次郎をもてなし、宇和島まで案内したと伝えられています。

また、藤井家の墓の北側には、萬安港を築いた岡文四郎(功岩自徳居士)の墓碑があり、楼門の天井には伊予市出身の岡田典正が描いた絵が残されています。訪れた際には、これらの史跡にも目を向けてみてください。

湊神社にある鯨の供養塔

沖が埋め立てられて道路や新しい港が整備された結果、古い堤防の内側に湊神社が残されています。その神社の鳥居の前には「克鯨一字一石塔」というクジラの供養塔が建っています。これは明治42年(1909年)、沖合に現れたクジラが漁場を荒らしたため、漁民たちが下関で銃やモリを手に入れ、50人を乗せた漁船八隻で捕獲し、その時のクジラを供養するものです。伊予灘にクジラが来るのは極めて珍しく、捕獲されたクジラを一目見ようと大勢の見物客が押し寄せたため、小屋を設けて有料公開されたと伝えられています。

おわりに

伊予市湊町の町家群は、国道378号線の海側に一本入った旧道沿いに点在しています。かつては醤油商や油商、酒屋、肥料商など多様な業種の家々が軒を連ね、まさに伊予地方の商業の縮図とも言える場所ですね。さらに、各所には町家の由来を示す看板が設置されており、大切に守り続けようとする地元の思いが感じられます。見どころが多く、散策ルートも豊富なこの湊町を、ゆっくり歩いてみてはいかがでしょうか。
記事投稿者:かず

記事投稿者:かず

ひめ旅部のかずです。生まれも育ちも愛媛県は伊予市。「伊予の本気」をお届けできるよう県内各地に出没中です。ひめ旅部の記事をきっかけに、カメラを持ってお出かけしていただけると嬉しいです!きっと、あなたの知らない愛媛が待っている?!