【愛媛県伊予市】伊豫稲荷神社~「正一位」の勅許を受けた最高ランクの神社~


2024.12.19

正一位の勅許を受けた伊豫稲荷神社

弘仁15年(824)、当時の国司(こくし:現在でいう県知事)・越智為澄が山城国伏見稲荷神社を勧請(かんじょう:神様の霊を分けて他の神社に移動させること)したとされる、石田郷(現在の伊予市山崎地区)の総鎮守です。今からちょうど1200年前のお話です。
 
鎌倉時代には、当時の伊予国水軍の武将・河野通有が、弘安4年(1281)の元寇・蒙古襲来の活躍によって山崎庄(現在の伊予市山崎地区)を領した際にここを祈願所とし、以来河野家が厚く崇拝した神社としても有名です。
 
また江戸時代には、大洲・松山両藩の御替地が行われてからも、大洲藩・新谷藩から相次いで祈願所とされ、代々の藩主や重臣たちが参拝奉幣して尊崇していました。
 
そして享和2年(1802)、神社の神階で最高となる「正一位」の勅許を受け、朝廷から奉られた大神号額が中殿に掲げられている、というとても由緒正しき神社なのです。

社号標「正一位稲荷神社」

この「正一位」というのは、奈良時代から明治時代以前に天皇から与えられた神社の階位のなかで最高位の称号のことで、ここ伊豫稲荷神社はその後「正一位稲荷大明神」と称えられるようになりました。
 
さすがに「正一位」の神階を持つ神社です。
 
家内安全、交通安全、災禍祓、自動車祓、病気平癒、身体健全、悪運勢祓、学業成就、合格祈願、必勝祈願、心願成就、年頭祈願、商売繁昌、社運隆昌、産業興隆、安全祈願、五穀豊穣、選挙当選、大漁満足、海上安全…など、ご利益をあげるとキリがありませんね。伊豫稲荷神社で叶わない願い事はないんじゃないでしょうか。
 
ちなみに、お正月三が日の初詣では、伊予鉄郡中港駅からの臨時バスが20分おきに出ていて、遠近の参拝者で賑わっています。

重厚な和様・唐様折衷様式の楼門

赤鳥居をくぐると重厚な楼門(県指定文化財)があります。
この門は寛文2年(1662)に建築されて、和様と唐様の折衷様式の桃山風三間一戸となっています。
 
柱は「ちまき」と呼ばれる円柱で、下部はそろばん玉のような形の礎盤を備えています。
 
棟札(建物建築の記録・記念として取り付けた札)には「寛文二壬寅年九月吉日正遷宮神主大太夫 藤原盛房」とあり、裏面には氏子内各村の庄屋の名とともに、大工・松山長右衛門などの名がありました。
 
この門を造った長右衛門は、かの有名な道後・伊佐爾波神社(国指定重要文化財)や大洲・如法寺禅堂(県指定文化財)を建築した名工だったそうで、時を経た昭和44年(1969)、付属の棟札とともに県指定文化財となりました。
 
それにしても、雰囲気のある立派な朱色の楼門…格式の高さを感じますよね。この造りの重厚かつ荘厳な感じと、ポップかつアートな感じが相まって、知る人ぞ知る映えスポットとして密かに人気なんです。

伊予市天然記念物の藤棚

境内には、京都・伏見稲荷大社から分けてもらったとされる3株の藤の大株があり、2株が紫藤、1株が白藤だそうです。
株元は根回り1m60cm、樹齢約300年の古木で、例年5月初旬には長い房をつけます。
 
江戸時代には、花期に藤神事が催され、歌舞伎一団や人形芝居、出店などで賑わったそうで、昭和35年(1960)に市指定天然記念物となりました。
 
藤棚の下に伊予市の俳人・門田一貴の句碑があります。
「神代なる 樹令を今に 藤芽ふく」

亀石

境内右側には、年に一度だけ大雨の日に小石を産むといわれる亀石(子持ち石)があり、古い信仰石であるといわれています。
確かに、亀の甲羅のような形をしていますね。国家・君が代の中にも出てくる「さざれ石」と同じ、信仰の対象となっている由緒ある石です。

夜泣き石

正面右側の奥の石段のところには日露戦争の戦捷(せんしょう)碑、石段の上には灘町・宮内家にあったとされ、子供が泣く音がするといわれる伝説の夜泣き石があります。
 
風の吹いてない、月の出ていない夜中になるとすすり泣くので、夜泣き石と呼ばれていたそうです。今ではこの石を拝むと赤ちゃんの夜泣きが治るといわれています。

赤鳥居の立ち並ぶ久美社

伊豫稲荷神社の社殿は平成元年に再建されていて、瓦に大洲藩加藤家の蛇の目家紋があります。大洲・新谷両藩の祈願所であったことが窺えますね。
 
さて、裏山に進み赤鳥居とのぼりが立ちならぶ階段を上り詰めると、宝物殿に納められている金毛九尾狐の霊をまつる久美社があります。久しく美しい社と字を当てて名付けられたものだそうです。
 
明治時代に九州から来た旅人が病にかかってしまい、長期滞在となったことで宿代がかさんだため、九州佐賀藩の鍋島家に代々伝わる秘宝「九尾の狐の尾」を宿代にと置いて去りました。現在この「九尾の狐の尾」は境内にある宝物館で保管されていますが、宮司の夢枕に立つほどの霊力を持っていたため、この久美社を建ててまつったと伝えられています。伊予市の隠れたパワースポットです。

文化財が多数展示されている宝物館

伊豫稲荷神社に伝わる100点にも及ぶ宝物が、収納展示されています。
 
県指定文化財の楼門棟札、市指定文化財5点(山姥金時の絵、知行安堵状、錦手大形神酒徳利一対、十錦神酒徳利一対、弓具及び新谷藩旗)や、棟札、絵馬、書画、焼物、刀剣、具足その他の武具、楽器など、多数の貴重な文化財が保管されているそうです。
開館日は、初午大祭(旧暦2月)と土用午祭(7月20日)の年2回だけ。
ただ事前連絡すれば、平日でも団体拝観はできるそうです。「宝物館」その名前だけでワクワクしますよね。

おまけ

伊豫稲荷神社は高台に位置しているので、楼門からまっすぐ続く参道の先の神社裏手まで進めば、伊予灘の美しい景色を一望することができます。

おわりに

いやはや、1200年の歴史と「正一位」の神位はダテじゃないですね。
由緒正しき神社で趣があり、自然豊かな静かな場所にあって、本当に心が洗われます。
しかも、アクセスもよく、コンパクトな境内に天狗、狐などの絵馬や、全国でも大変珍しいとされる、耳を伏せ尻尾をしまい込んだ狛狐など、見どころ満載な神社です。
それでいて、そこまで人で込み合うこともなく静かな時間を過ごせますので、散策にもおすすめ。
いたるところで歴史の深さを感じられ、ゆっくりと心が落ち着く…そんな場所です。
 
そしてやはり圧巻、見どころは楼門ですね。立派、お見事、もう言葉がありません。
色鮮やかな楼門や鳥居はフォトジェニックなスポットとしても人気がありますので、週末は御朱印帳を携えて、ぜひ伊予市へ!
記事投稿者:かず

記事投稿者:かず

ひめ旅部のかずです。生まれも育ちも愛媛県は伊予市。「伊予の本気」をお届けできるよう県内各地に出没中です。ひめ旅部の記事をきっかけに、カメラを持ってお出かけしていただけると嬉しいです!きっと、あなたの知らない愛媛が待っている?!